中国の戦国時代、燕の昭王(後に秦の第28代君主となる昭襄王)は、戦いで亡くなった者を丁寧に弔い、怪我をした者を見舞いました。また身分が下のものにも丁寧な言葉遣いで接していました。それは、この戦乱の世で自分をサポートしてくれる優秀な人材を確保するためでもありました。
昭王「あかーん、ぜんぜん応募が無いやん」
郭隗「あきませんなあ」
昭王「おまえ、先週就職フェア行ってたやん。どないやった?」
郭隗「さっぱりでしたわ」
昭王「あかんかったか」
郭隗「お昼過ぎから夕方までブースに座ってましたけど…」
昭王「ほう」
郭隗「学生がひとりふたりのぞきに来ただけでした」
昭王「その学生にうちのパンフレットは渡したんか」
郭隗「追いかけていって、渡しました」
昭王「それで?」
郭隗「キモっ、言われました」
昭王「あかんやーん」
郭隗「隣のブースで、株式会社が運営している介護施設が…」
昭王「どうせ、めっちゃ賑やかに盛り上げてるんやろ」
郭隗「そうですねん。あんな下品クリエイティブなこともできへんし」
昭王「いま、危なかったな」
郭隗「社会福祉法人のプライドが邪魔しましてん」
昭王「とはいえ、株式会社のとこへは学生殺到や」
郭隗「そうですねん」
昭王「ほな、おまえ半日かけて何してきてん」
郭隗「せやから、ブースに座って、待って…」
昭王「仕事できひんやっちゃなー」
郭隗「すんまへん」
昭王「ていうか、ちょっと待て。なんで福祉施設の求人の話になってるねん」
郭隗「書いてるおっさんが、それで頭の中いっぱいになってるからとちゃいますか」
昭王「いまは、戦国時代のわしの参謀を募る話しや」
郭隗「そうでした」
昭王「なんか、ええ手はないかなあ」
郭隗「それやったら、あてに腹案がおます」
昭王「高給優遇か?」
郭隗「そんなことだけしても、ええ人は来まへん」
昭王「まあ、金目当てで来られてもなあ」
郭隗「ええ人材を確保するには競争が必要だす」
昭王「競争?」
郭隗「そうだす。できるだけ大勢の応募者の中から優秀なやつを選ぶんですわ」
昭王「おまえな、誰も応募が無いのにどない競争さすねん。あほも休み休み言えよ」
郭隗「そこが腹案ですねん」
昭王「どういうこっちゃ」
郭隗「まず、私を参謀として採りなはれ。それで高給で優遇。」
昭王「あほか。お前みたいなお調子もんが一番あかんねん」
郭隗「そうでっしゃろ」
昭王「いや、なにゆうてんねん」
郭隗「そしたら、応募がわんさか来ます」
昭王「なんでやねん」
郭隗「たとえ話ですけどな、死んだ馬を金払うて買うたったら、”あの王様は死んだ馬にでも金を払うんやから、生きてる馬やったらもっと高い金を出すんとちゃうか”って、みんな思いまっしゃろ」
昭王「まあ、ゆうてることはわかる」
郭隗「それと同んなじことで、私を採ったら”あいつでも採用されて、しかも高給もろてる。そしたら俺も採用されるんちゃうか”ってみんな思うやろ、ゆう算段ですわ」
昭王「……」
郭隗「どないだす?」
昭王「ちょっとまて。それ、ええ方法かもしれへんな」
郭隗「へっへっへっ…」
上のお話は、『戦後策』で郭隗が昭王にした話(要約=もし王様が、ほんとうにすぐれた人材を集めようとされるなら、まず私のようななんの取り柄もない人間を重用してください。そうすれば、私のような者さえ取り上げられたという評判がたって、もっとすぐれた人が集まってきます)をもとにしています。「隗」は人名だったんですね。
しかし、この「先ず隗より始めよ」は、わが国では「言い出した者から実行せよ」「物事を行うときは、まず身近なことから始めるべき」という意味で使われています。こちらの意味で使っている人たちにこの『戦後策』の解釈を話しても、おそらくすなおには受け入れてくれません。ていうか、私が話しても聞いてくれませんでした。そういう人たちに浅い理解でこれ以上の話しをするのは無理なので、早々に退散しました。そんなわけで、みなさんも生半可な知識で誰かに話しちゃダメですよ。